SOFT MACHINE

 ジャズ・ロック、カンタベリー周辺音楽を語る上で最重要グループであり、最高峰。メンバーは流動的だがツワモノ揃い。メンバーによって様々に音楽性を変えていく辺はキング・クリムゾンに似ているかも。結成は66年と古く、ワイルド・フラワーズが母体。分裂したワイルド・フラワーズはこのソフト・マシーンとキャラバンの2大グループを生み出した。オリジナル・メンバーはデヴィッド・アレン、ケヴィン・エアーズ、ロバート・ワイアット、マイク・ラトリッジと凄い事この上ない。多少の音楽好きであれば一度はどこかで耳にした事がある筈。アレンはゴングを結成。ワイアットはマッチング・モール、その後のソロ活動で時代を超えて愛されるアーティストへ。エアーズはソロ活動で幾つもの素晴らしい作品を残している。ラトリッジは同じくソフト・マシーン出身のカール・ジェンキンスとアディエマスで大成功を収めたのは記憶に新しい。

 先ずはどれか一枚手に取ってみよう。それぞれのアルバムに様々な魅力を備えた彼らの作品群に駄作、凡作は一枚も無いから。

THE SOFT MACHINE

1.Hope For Happiness

2.Joy Of A Toy

3.Hope For Happiness (Reprise)

4.Why Am I So Short ?

5.So Boot If At All

6.A Certain Kind

7.Save Yourself

8.Priscilla

9.Lullabye Letter

10.We Did It Again

11.Plus Belle Qu'une Poubelle

12.Why Are We Sleeping ?

13.Box 25/4 Lid

Mike Ratledge (Organ)

Robert Wyatt (Drums and Lead Vocal)

Kevin Ayres (Bass  Guitar and Vocal)

 

  68年発表。1st製作前にデヴィッド・アレンが脱退(フランス公演後の英国帰国時に麻薬問題を抱えたアレンは英国の再入国を拒否される。フランスに残ったアレンはゴングを結成)。残された3人で作成されたアルバム。ジミ・ヘンドリクスの前座を担当したアメリカツアー中の4日間で録音された。

  ドラムの一撃とワイアットの抜けた声で幕を明ける@「Hope For Happiness」は序盤タメを利かせており、1:40位でドラムが畳み掛ける様に突入。若さ溢れる勢いのあるナンバーだ。中盤のラトリッジのオルガンも光る。エアーズのベースがしっかりとリズムをキープ。A「Joy Of A Toy」は翌年発表のエアーズ1stソロアルバムのタイトルにもなった曲。気の抜けたような落ち着いた感じ。ドラム、オルガンのコンビネーション後B「Hope For Happiness (Reprise)」で締め括り。@〜Bは繋がっている。C「Why Am I So Short ?」は短いボーカルナンバーで途中のオルガンとドラムが良い感じ。続けてアルバム中最も長尺のD「So Boot If At All」となる。オルガンが聴き物。ベースの音も大きい。ワイアットは途中ドラムソロを披露。彼のドラミングは力強くバンドを纏め上げており、ワイアットを中心にバンドが機能していた事が窺える。ピアノも鳴り響く辺りに何となく実験性を感じさせる。バンド作。E「A Certain Kind」はホッパー作。オルガンを基調とした歌モノだが後半ベースが唸る。F「Save Yourself」はワイアット作。出だしのファズ・オルガン、破天荒なワイアットのドラムにベースがリズムを刻む。ハーモニーも印象的なポップナンバー。バンド作のG「Priscilla」でベース音小曲を挟みH「Lullabye Letter」のポップで軽快なエアーズのナンバーへ。間奏はオルガン、ドラム、ベースのしっかりしたアンサンブル。I「We Did It Again」はエアーズらしいサイケ色ポップ感覚。ワイアットの小刻みなドラミングは徐々にスピードアップ。J「Plus Belle Qu'une Poubelle」も続いてエアーズ作。K「Why Are We Sleeping ?」は語り調のボーカルにメロディアスなコーラス。バンド作。短いL「Box 25/4 Lid」のファズ・ベースはヒュー・ホッパーが弾いてるようだ。ラトリッジ&ホッパー作。

  記念すべき1st。ワイアット、ラトリッジ、エアーズ3人がそれぞれの個性を発揮しようとしており歪んだラトリッジのオルガン、ドタバタと忙しく動きまわるワイアットのドラミング、エアーズのサイケデリック感覚が上手く同居した作品。1stならではの良さを持った名作だろう。現在は2ndとお得なカップリング2in1CDで入手可能。

VOLUME TWO

1.Pataphysical Introduction - PtT

2.A Concise British Alphabet - PtT 

3.Hibou, Anemone And Bear

4.A Concise British Alphabet - PtU

5.Hulloder

6.Dadaa Was Here

7.Thank You Pierrot Lunaire

8.Have You Ever Bean Green ?

9.Pataphycidal Introduction - PtU

10.Out Of Tunes

11.As Long As He Lies Perfectly Still

12.Dedicated To You But You Weren't Listening

13.Fire Engine Passing With Bells Clanging

14.Pig

15.Orange Skin Food

16.A Door Opens And Close

17.10.30 Returns To The Bedroom

Mike Ratledge (Organ)

Robert Wyatt (Drums and Vocal)

Hugh Hopper (Bass Guitar)

Brian Hopper (Sax)

 

  69年発表の2nd。ツアーの疲れでケヴィン・エアーズはイビザ島へ移住。バンドは一反終焉を迎えるが1stアルバムの予想外の反響、レコード会社の呼びかけでエアーズの後任にワイルド・フラワーズ時代からの付き合いでソフト・マシーンのマネージャーでもあったヒュー・ホッパーを迎え入れバンドは再編され作成された。ヒュー・ホッパーの兄であるブライアン・ホッパーもメンバーではないながら参加。ホッパーの加入はジャズ寄りの色調を呼び込み、彼らはこの形を以降発展させていく。ユーモアかつウィットに富んだ歌詞も面白い。17曲と曲数は多いものの組曲形式で繋がっている。

  ピアノと語りボーカル、ファズオルガンで幕を明ける@「Pataphysical Introduction - PtT」はワイアット作、ABCフレーズが印象的なA「A Concise British Alphabet - PtT」はソフト・マシーン最短10秒のナンバー、ホッパー&ワイアット作。あっと言う間に名曲B「Hibou, Anemone And Bear」へ。カンタベリー音楽特有の流れるようなオルガンに息を呑む。ラトリッジ&ワイアット作。残響を残しC「A Concise British Alphabet - PtU」はアルファベットZ〜Aを発声していくAと対になるナンバー。12秒。続くD「Hulloder」もあっと言う間の1分に満たないポップなナンバー。E「Dadaa Was Here」はサイケ的要素を含んだ曲。F「Thank You Pierrot Lunaire」の可愛らしい小曲に続いてG「Have You Ever Bean Green ?」は多少サイケで後半はインプロっぽい。C〜Gまでホッパー&ワイアット作。H「Pataphycidal Introduction - PtU」はピアノとワイアットの抜けた声。語り調の声も混ぜ、若干スピードが増すI「Out Of Tunes」へ突入。即興的なやや混沌としたナンバー。終盤は突然消え入るように終わる。@〜Iは一通り繋がっている。バンド作のJ「As Long As He Lies Perfectly Still」は印象的に響くオルガンにワイアットが力強く歌う。ラトリッジ&ワイアット作。K「Dedicated To You But You Weren't Listening」はアコギを使用したワイアットの弾き語り(か?)。ホッパー作となっている。L「Fire Engine Passing With Bells Clanging」はオルガンが火を噴きベース、ドラムが共鳴。やや実験的作風。以降Oまでラトリッジ作。ドラムとピアノ音と共に軽快に歌うワイアットが微笑ましいM「Pig」。ベースがリズムをキープしオルガンとサックスが伴奏するN「Orange Skin Food」はアンサンブル重視。O「A Door Opens And Close」のエレキギターのような音はファズ・オルガンか。そのまま突入するP「10.30 Returns To The Bedroom」はバンド作。オープニングの入り方が何とも良い。間奏はワイアットのドラムソロ、唸るベース。見事なアンサンブルで締められている。

  前作の発展系だがバンド・アンサンブルに確実な成長が窺える。変拍子を多用したワイアットのドラミングには目を見張るものがある。カンタベリー音楽の最初期が窺える傑作。

THIRD

1.Facelift
2.Slightly All The Time
3.Moon In June
4.Out-Bloody-Rageous

Mike Ratledge (Organ and Piano)

Hugh Hopper (Bass Guitar)

Robert Wyatt (Drums and Vocal)

Elton Dean (Alto Sax and Saxello)

Rad Spail (Violin)

Lyn Dobson (Flute and Soprano Sax)

Nick Evans (Trombone)

Jimmy Hastings (Flute and Bass Clarinet)

 

  ツアーの過程でキース・ティペット・グループのエルトン・ディーンを正式メンバーとして向え、ラトリッジ、ホッパー、ワイアット、ディーンを筆頭に更にラブ・スパール、リン・ドブソン、ニック・エヴァンス、ジミー・ヘイスティングスの4人を加えた8人編成で作成。70年に誕生したのがこの「THIRD」。ソフト・マシーンの最高傑作は個人個人の音楽嗜好によって変ってくるだろう。典型的なジャズが好きなのであれば後の作品となってくるだろうし、ジャズ感覚の無い1stを最高傑作とする方もいると思う。しかし、これぞプログレッシヴと呼びたくなる音が好きであれば間違いなくこの3rdが最高傑作であり僕もこの作品が最も好きだ。何れも18〜19分を超える長尺ナンバー4曲を収録した大作。ロバート・ワイアットのB「Moon In June」のみボーカル入りで他はインスト。Bはソフト・マシーンにとって最後のボーカル・ナンバーである。
  オープニングを飾る@「
Facelift」はヒュー・ホッパー作。インプロの歪んだオルガンから何やら只ならぬ予感を感じさせる。フリーフォームに混沌を作り出しながら約5分後テーマのリフが展開。背筋が凍る見事なオープニングだ。7分で速さを上げ攻撃的な爆発を見せる辺りは、ど偉くカッコ良い。11分を過ぎた辺りで一旦は落ち着きを見せるが15分でサックスが暴れる。17:20で再度メインリフへと繋がりラストへ。強烈な一曲でありソフト・マシーンを代表する名曲。A「Slightly All The Time」はマイク・ラトリッジ作。オープニングの響き渡るベース音の上を徘徊するサックスが何とも印象的でドラムとベースも非常に上手く機能している。5:45でリズムチェンジ。ワイアットのドラミングが見事。8分でまたもや転調。ラトリッジのオルガンを基調とした落ち着いたパートだ。12分で更におっとりしたムーディー調へと変化。エルトン・ディーン(か?)のサクセロが気持ち良く響く。16分でスピードを上げていく。ベースとドラムが織り成す軽快なリズムの上をエレピとサックスが舞う。17:30でまた変化させキメのエンディング。目が回るほどの変化にもかかわらず無理を感じさせないのは見事。これも名曲だ。Bはワイアット作。オルガンをバッキングに切実と歌い上げるワイアットのボーカルを堪能できる至福の9分。そして間奏へ。ワイアットのドラミングがカッコ良いスピード感溢れるパートだ。5分ほど続き、終盤は実験的にも感じるサイケ的音響処理。名曲。C「Out-Bloody-Rageous」はAに続きラトリッジ作。オープニングの鍵盤を使ったサイケ的混沌とした音処理はいかにも現代音楽の手法に近い。@とはまた違ったアプローチだ。5分近く続きようやくテーマとなるメインパートへ。アルバム中最も明確なアンサンブルが聴ける。軽快に展開して行くため気持ち良く聴ける。10分を前にワンクッション置きピアノからオルガン、ベース、ドラムをバックにサックスパートへ突入。14:45辺りでスピードを上げていくが16分を前に音は消えていき美しいエレピの音が現れる。その繊細で美しき旋律は一瞬我を忘れそうなほどだ。一種のトランス感覚溢れたパートで余韻を引きずったままラストを締め括る。

  全4曲。全て名曲と言っていいだろう。総じて言うのであればジャズ・ロックだがそんなもんでは収まらない音の魅力がぎっしりと詰め込まれている。大胆かつ知的。どれもが大作で前衛的アプローチを随所に見せるため、気を抜いたり一度聴いただけでは全容を把握し難いが、即興と思えるような混沌の中にも一貫した芯があり、理路整然と緻密に計算されて組み立てられているこの完成度に驚愕。演奏展開の凄み、現代音楽に通ずる実験性が加味されている点は恍惚の次元。素晴らしすぎる。超傑作。

FOURTH

1.Teeth
2.Kings And Queens
3.Fletcher's Blemish
4.Virtually Part 1
5.Virtually Part 2
6.Virtually Part 3
7.Virtually Part 4

Hugh Hopper (Bass Guitar)

Mike Ratledge (Organ & Piano)

Robert Wyatt (Drums)

Elton Dean (Alto Saxphone & Saxello)

<Guest>

Roy Babington (Double Bass (Courtesy B & C Records))

Mark Charig (Cornet)

Nick Evans (Trombone)

Jimmy Hastings (Alto Flute & Bass Clarinet)

Alan Skidmore (Tenor Sax)

 

  71年発表の4th。バンドの指向は完全にフリー・ジャズの様相を呈し、この作品ではワイアットの楽曲はもちろんのことボーカルナンバーも無く彼はドラムオンリー。急進的にジャズ色を強めるソフト・マシーンのサウンドとより幅広くの音楽性を求めるワイアットにずれが生じ彼はこの作品でバンドを去り、マッチング・モウルを結成する。

  @「Teeth」はラトリッジ作。力強いジャズ・ロック。9分弱のナンバーで最初の5分はメンバーそれぞれが力を発揮し圧倒的演奏を展開。一旦タメを作るも再度押し捲る。A「Kings And Queens」はゆったりとしたナンバーでホッパー作。B「Fletcher's Blemish」はディーン作。即興寄りの演奏で個々のメンバーがそれぞれに演奏を繰り広げる感じ。C〜Fは組曲形式。ホッパー作。C「Virtually Part 1」では様々な楽器が静かに主調しあっているがワイアットのドラミングがシンバルワークを含め全体の調和を整えているようだ。D「Part 2」はドラム、ベース、サックスが主体となるナンバーでこの組曲のメイン部分。E「Part 3」は骨格を持たないインプロ。F「Part 4」はベース音を軸にオルガン、サックスが共鳴。ドラムが加わりフェイドアウト。

  アルバム全体的にインプロの比重を高め、ヒュー・ホッパーの実力を定着させた名作。

SOFT MACHINE 2

THE WILD FLOWERS

CARAVAN

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